平成28年度 経営工学部門 Ⅲ-32PR含む
問題
Ⅲ-32 サプライチェーンマネジメントに関する次の記述のうち、最も不適切なものはどれか。
① サプライチェーン上の見込生産と受注生産が切り替わる分岐点を、デカップリングポイントという。
② サプライチェーン上のそれぞれの組織が自分の利益を最大化するような行動をとったとき、サプライチェーン全体で利益を最大化したときと比べて大きく利益を損じるような現象を、ダブルマージナライゼーションという。
③ 企業全体の経営資源を総合的に計画、管理し、経営の効率化を図るための手法・概念を、ERP (Enterprise Resource Planning)という。
④ 各在庫点から見て下流にある在庫をすべて含めたものを、エシェロン在庫という。
⑤ S&OPとは、企業や組織のゴールを阻害する制約条件の最大限の活用と強みのみがゴールに近づく唯一の方法論であることを教える哲学である。

解答
正解は 5 になります。
1. 問題の位置付けと目的
サプライチェーンマネジメント(SCM)は、原材料調達から製品の顧客への配送までの一連の流れを最適化するための手法です。
本問題では、SCMに関連する用語や概念の正確な理解が求められています。
2. 各選択肢の理論的検証
① デカップリングポイント
内容:
「見込生産と受注生産の分岐点」
解説:
- 正確な定義:デカップリングポイントは、在庫を持つ位置を指します。
見込生産(Push型)と受注生産(Pull型)の切り替えポイントとして機能します。 - 具体例:自動車メーカーでは、車体の製造は見込生産、カスタムオプションは受注生産。
適切性:◎(正しい記述)
② ダブルマージナライゼーション
内容:
「各組織が自社利益を追求すると全体利益が損なわれる現象」
解説:
- 理論的根拠:サプライチェーン全体の最適化ではなく、個々の組織が最適化を図ることで発生する非効率(例:在庫過剰、需給ミスマッチ)。
- 具体例:小売店が発注量を過剰に増やすと、メーカーの生産計画が乱れ、全体のコストが増大。
適切性:◎(正しい記述)
③ ERP(Enterprise Resource Planning)
内容:
「経営資源の総合的な計画・管理による効率化」
解説:
- ERPの本質:財務、人事、生産、販売など部門横断的なデータ統合により、経営資源を最適配置します。
- 具体例:SAPやOracleなどのERPパッケージが代表的。
適切性:◎(正しい記述)
④ エシェロン在庫
内容:
「下流の在庫をすべて含めた在庫」
解説:
- 正確な定義:サプライチェーンの各段階(例:部品メーカー、組立工場、小売店)の在庫を合算した概念です。
- 具体例:スマートフォンのサプライチェーンでは、半導体メーカーから消費者までの全在庫を指します。
適切性:◎(正しい記述)
⑤ S&OP(Sales and Operations Planning)
内容:
「制約条件の最大限活用を教える哲学」
誤りの核心:
- S&OPの正しい定義:販売計画と生産計画を統合的に調整し、需給バランスを最適化するプロセスです。
- 誤記述の内容:この説明は「TOC(Theory of Constraints:制約理論)」の定義です。TOCはボトルネックの特定と改善を重視します。
具体例: - S&OP:需要予測に基づき、生産量と在庫水準を調整する月次会議。
- TOC:工程内のボトルネック工程にリソースを集中させる改善手法。
適切性:×(不適切な記述)
3. 技術士試験対策のポイント
3.1 混同しやすい用語の整理
用語 | 正しい定義 | 誤り例 |
---|---|---|
S&OP | 販売と生産の統合調整 | 制約理論の説明 |
TOC | ボトルネックの改善 | 在庫管理の手法と誤解 |
デカップリングポイント | Push/Pullの分岐点 | 単なる在庫場所と誤解 |
3.2 サプライチェーン管理の重要概念
- デマンドドリブン:需要に応じた生産計画
- リードタイム短縮:在庫削減と顧客満足度向上
- 可視化:サプライチェーン全体の情報共有
4. 総括:なぜ⑤が不適切か?
S&OPは「販売と生産の統合的な計画策定プロセス」であり、制約理論(TOC)とは全く異なる概念です。
この問題では、用語の定義を厳密に理解し、類似概念との区別が求められました。
技術士試験では、表面的な知識ではなく、核心的な定義を押さえることが重要です。
感想
ここでビックリ。
過去問、SCMって出てきてなかったんですね・・・・。
最近本業でSCMもよくみてるので特に何も考えていませんでしたが、そうか、これが初出か・・・・。
今後はどんどん出てくるのではないでしょうかね?
問題見ておりませんが・・・・。