平成25年度 経営工学部門 Ⅲ-26PR含む
問題
III-26 シミュレーションに関する次の記述のうち、最も不適切なものはどれか。
① シミュレーションでは、対象とするモデルを構築し、モデルの操作によってシステムの挙動を再現しようとする。
② システムダイナミックスは、非線形システムの動的振る舞いを理解するためのシミュレーションとモデル化の手法の1つである。
③ 乱数を用いてシミュレーションや数値計算を行う方法はモンテカルロ法と呼ばれる。
④ 完全なサイコロを振って出る目を記録することによって作られる乱数を算術乱数と呼ぶ。
⑤ 離散型シミュレーションとは、システムの状態に変化をもたらす出来事が時間軸上で不規則に発生するようなシステムのシミュレーションである。
解答
正解は 4 になります。
シミュレーションの基礎と種類
シミュレーションは、現実世界の複雑なシステムや現象を模倣し、その挙動を分析する強力なツールです。経営工学の分野では、様々な意思決定や最適化問題を解決するために広く活用されています。
シミュレーションの基本概念
シミュレーションの核心は、現実のシステムをモデル化し、そのモデルを操作することで実際のシステムの振る舞いを予測することです。これにより、実際のシステムを変更することなく、様々な条件下での結果を予測できます。
例えば、新しい生産ラインの設計をシミュレーションする場合、以下のような手順を踏みます:
- 生産ラインの各要素(機械、作業員、材料の流れなど)をモデル化
- それらの要素間の相互作用をプログラムで表現
- 様々な条件(生産量、作業時間など)を変更しながらシミュレーションを実行
- 結果を分析し、最適な設計を決定
システムダイナミックス
システムダイナミックスは、複雑なシステムの時間的変化を理解するための手法です。特に、フィードバックループや時間遅れを含む非線形システムの分析に適しています。
例:企業の成長モデル
- 売上増加 → 利益増加 → 投資増加 → さらなる売上増加(正のフィードバック)
- 市場飽和 → 売上減少(負のフィードバック)
このような相互作用を数学的にモデル化し、長期的な企業の成長パターンを予測します。
モンテカルロ法
モンテカルロ法は、乱数を使用して確率的な問題を解決する手法です。特に、解析的に解くことが困難な問題に対して有効です。
例:在庫管理問題
- 需要の確率分布を設定
- 乱数を使って多数の需要シナリオを生成
- 各シナリオに対して在庫コストを計算
- 結果を統計的に分析し、最適な在庫水準を決定
離散型シミュレーション
離散型シミュレーションは、システムの状態が特定の時点でのみ変化するモデルを扱います。多くの生産システムや待ち行列システムがこれに該当します。
例:銀行の窓口サービス
- 顧客の到着(不規則)
- サービス開始(顧客到着時)
- サービス終了(サービス時間経過後)
これらの離散的なイベントごとにシステムの状態(待ち行列の長さ、窓口の稼働状況など)が変化します。
問題の解説
さて、問題の選択肢を一つずつ見ていきましょう。
①②③⑤はいずれも正しい記述です。それぞれシミュレーションの基本概念、システムダイナミックス、モンテカルロ法、離散型シミュレーションについて適切に説明しています。
④の記述が不適切です。完全なサイコロを振って得られる乱数は「物理乱数」と呼ばれます。「算術乱数」は、コンピュータのアルゴリズムによって生成される乱数のことを指します。
物理乱数は真の意味でランダムですが、生成に時間がかかり、再現性がありません。一方、算術乱数は擬似乱数とも呼ばれ、高速に生成でき、同じシード(初期値)を使えば同じ数列を再現できるという特徴があります。
シミュレーションでは通常、算術乱数が使用されます。これは、実験の再現性が重要であり、また大量の乱数を高速に生成する必要があるためです。
まとめ
シミュレーションは経営工学において非常に重要なツールです。システムダイナミックス、モンテカルロ法、離散型シミュレーションなど、様々な手法があり、問題の性質に応じて適切な手法を選択することが重要です。また、乱数の扱いも重要な要素であり、その特性を正しく理解することがシミュレーションの信頼性を高める上で欠かせません。
技術士試験では、これらのシミュレーション手法の特徴や適用範囲、さらには実務での活用方法について理解していることが求められます。単に手法を知っているだけでなく、実際の経営課題にどのように適用できるかを考える力が重要です。
感想
今日は正解でした。
サイコロは算術ではないですからね。ただ、物理乱数ということは初めて知りました。
モンテカルロ法もよく聞きますね。
たしかに経営課題に対してどんなツールを使うのか、が大事なんで丸覚えはよしておいた方がいいかな。