問題

Ⅲ-28 経済性工学に関する次の記述のうち、最も不適切なものはどれか。

① 経済的な有利さを判断するための「比較の原則」の1つに、「各案の間で相違する費用と収益とを、お金の流れに注目してとらえる」という原則がある。

② 回収不能になった過去の投資額で方策の優劣に関係のない費用を「埋没費用」と呼ぶ。

③ 複数の投資案を比較する場合、手余り状態と手不足状態では案の優劣が変わることはない。

④ いくつかの案の中から1つを選ぶと、他の案は必然的に捨てられる場合を「排反案からの選択」と呼ぶ。

⑤ 寿命が異なる複数案の優劣を比較する方法の1つに、年価法を適用する考え方がある。

解答

正解は 3 になります。

1. 問題の位置付けと目的

この問題は、経済性工学の基本概念を正確に理解しているかを問うものです。
特に「不適切な記述」を選ぶことで、用語の定義や比較原則の本質を確認します。


2. 各選択肢の検証

① 比較の原則「差異分析」

内容
「各案の相違する費用・収益を、お金の流れに注目してとらえる」
解説
経済性評価の基本原則です。共通部分を除外し、差異のみを比較することで、意思決定を効率化します。
具体例

  • 既存機械A vs 新機械Bの比較 → 両者で共通の固定費は無視し、差異(電力コスト削減額)のみを評価

適切性:◎(正しい記述)


② 埋没費用(サンクコスト)

内容
「回収不能な過去の投資額で、方策の優劣に関係ない費用」
解説
埋没費用は「過去の支出」であり、将来の意思決定に影響させてはいけません。
具体例

  • 1億円で購入した機械が故障 → 修理費200万円 vs 新規購入300万円を比較する際、「既に支払った1億円」は考慮しない

適切性:◎(正しい記述)


③ 手余り・手不足状態での案の優劣

内容
「手余り状態と手不足状態では案の優劣が変わらない」
解説
誤りの核心です。

  • 手余り状態:資金に余裕がある → 投資回収率(IRR)を重視
  • 手不足状態:資金が限られる → 回収期間(Payback Period)を優先
    具体例
  • 手余り:IRR 15%の案件A vs IRR 10%の案件B → Aを選択
  • 手不足:回収期間2年の案件C vs 5年の案件D → Cを選択

適切性:×(不適切な記述)


④ 排反案からの選択

内容
「1つを選ぶと他案が捨てられる状況」
解説
排反案は「同時に実行不可能な選択肢」を指します。
具体例

  • 工場建設地を「東京」vs「大阪」から選択 → 両方の建設は不可能

適切性:◎(正しい記述)


⑤ 年価法による寿命差異の調整

内容
「寿命が異なる案の比較に年価法を適用」
解説
年価法は、異なる寿命の案件を「年間コスト」に換算して比較します。
計算例

  • 機械X(寿命5年、初期費用500万円) → 年価 = 500万円 / 5 = 100万円/年
  • 機械Y(寿命10年、初期費用800万円) → 年価 = 800万円 / 10 = 80万円/年

適切性:◎(正しい記述)


3. 技術士試験対策のポイント

3.1 誤り選択肢③の深掘り

  • 手余り状態:資本コストが低い → 長期的な利益を優先
  • 手不足状態:資本コストが高い → 短期回収を優先
    理論的根拠
  • 資金制約下では「限界費用」が意思決定を左右します。

3.2 混同しやすい用語の整理

用語定義
埋没費用回収不能な過去の支出既に支払った設備費用
機会費用選択しなかった案の利益土地を自社工場に使う代わりの賃貸収入

4. 総括:不適切な記述が③である理由

経済性評価では、資金の制約状態が意思決定に直結します。手余りと手不足では、下記の違いが生じるため、案の優劣が逆転し得ます:

  • 評価基準の変化:IRR vs 回収期間
  • 資本コストの影響:余剰資金の運用利回り

この問題を通じて、経済性工学の基本原則「状況に応じた適切な評価手法の選択」の重要性を再確認しましょう。

感想

こういう問題は初めてかも?と思いましたがありましたね、過去に。

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キーワードは大体同じかな。

このようにフォーマットが違うと答えきれない、というのは本質理解が進んでいないからだな。

しっかり勉強せねば・・・。