問題
Ⅲ-20 統計的検定及び推定に関する次の記述のうち、最も適切なものはどれか。
① 正規分布に従う確率変数の平均と与えられた値との比較において、分散が未知の場合の片側検定では、χ²分布の分位点が用いられる。
② 正規分布に従う確率変数の2つの分散の比に関する片側信頼限界では、ポアソン分布の分位点が用いられる。
③ 正規分布に従う確率変数において、2つの対応のある測定の平均の差の期待値を検定する際、分散が既知の場合の両側検定では、二項分布の分位点が用いられる。
④ 正規分布に従う確率変数において、2つの対応のない測定の平均を比較する検定のとき、分散は未知であるが等しいと仮定してよい場合の片側検定では、$$t$$分布の分位点が用いられる。
⑤ 正規分布に従う確率変数の標準偏差に関する信頼区間の推定において、両側信頼限界を求めるには、$$F$$分布の分位点が用いられる。

解答
正解は 4 になります。
問題の概要
統計的検定および推定は、限られた標本データから「背後にある真のルール(母集団の性質)」を見抜くための技術です。
経営工学(IEや品質管理)において、例えば「新しい作業手順を導入した結果、平均作業時間が短縮された」と主張する場合、その短縮が「たまたまその時のデータが良かっただけ(偶然)」なのか、「手順そのものに効果がある(必然)」のかを白黒つける必要があります。
この「必然」を証明するために、私たちは「分布」という物差しを使います。
どの物差し(分布)を使うかは、①何を評価したいか(平均か、バラツキか)、②前提条件(母分散が分かっているか、比較対象はいくつか)によって厳密に決まっています。
この適格性を間違えると、せっかくのデータ分析も誤った意思決定を導く「ゴミ」になってしまいます。
統計的判断を支える「4大分布」の構造的理解
1.標準正規分布 ($z$ 分布)
- 用途: 「平均」の評価。
- 条件: 母分散(真のバラツキ)が既知であること。
- 実務: 過去数千件のデータがあり、バラツキが安定している確立された工程などで使われます。
2.$t$ 分布
- 用途: 「平均」の評価。
- 条件: 母分散が未知であること。
- 実務: 最も多用されます。手元の数件〜数十件のデータから計算した「不偏分散」を頼りに判定するため、正規分布よりも判定を少し厳しく(棄却域を遠くに)設定する特性があります。
3.$\chi^2$(カイ二乗)分布
- 用途: 「バラツキ(分散)」の評価。
- 条件: 1つの群の変動。
- 実務: 「製品の寸法のバラツキが、規格内に収まっているか?」という、値の広がりそのものを管理する際に必須です。
4.$F$ 分布
- 用途: 「2つのバラツキ」の比較。
- 条件: 2つの群の分散の比。
- 実務: A設備とB設備のどちらが安定しているか、あるいは「分散分析(ANOVA)」という、複数の要因が結果に影響を与えているかを解析する際の主役です。
各選択肢の詳細解説
① 正規分布に従う確率変数の平均と与えられた値との比較において、分散が未知の場合の片側検定では、χ²分布の分位点が用いられる。
この選択肢は不適切です。
平均を検定したいのに、母分散(母集団のバラツキ)がわからない……。
このとき、私たちが唯一頼れるのは、サンプルから算出した「標本不偏分散($s^2$)」だけです。
この「不完全な情報」を使って平均を検定する際に適合する理論分布は $t$ 分布 です。
$\chi^2$ 分布は分散そのものを評価するためのものであり、平均の物差しとしては目盛りが合いません。
② 正規分布に従う確率変数の2つの分散の比に関する片側信頼限界では、ポアソン分布の分位点が用いられる。
この選択肢は不適切です。
「分散の比」というキーワードが出た時点で、選択すべきは $F$ 分布 一択です。
$F$ 分布の統計量は、2つの $\chi^2$ 変数をそれぞれの自由度で割った値の比として定義されます。
一方、ポアソン分布は「単位時間あたりに平均 $\lambda$ 回起こる事象が、$k$ 回起こる確率」を表す、事故発生件数や故障件数の解析に使う離散分布です。
連続量である「分散の比」には使えません。
③ 正規分布に従う確率変数において、2つの対応のある測定の平均の差の期待値を検定する際、分散が既知の場合の両側検定では、二項分布の分位点が用いられる。
この選択肢は不適切です。
「対応のある」とは、例えば「同じ作業者に、改善前と改善後の手順で作業をしてもらい、その差を見る」場合です。
この差のデータもまた正規分布に従うため、分散が既知であれば 標準正規分布 ($z$ 分布) を用います。
二項分布は「成功か失敗か」といった0/1のデータを扱うためのもので、連続的な「差の数値」を扱うには不向きです。
④ 正規分布に従う確率変数において、2つの対応のない測定の平均を比較する検定のとき、分散は未知であるが等しいと仮定してよい場合の片側検定では、t分布の分位点が用いられる。
この選択肢は適切です。
経営工学の試験で最も狙われるポイントです。
- 対応がない: 別々のグループ(A班とB班など)を比べる。
- 分散が未知だが等しい: どちらのグループもバラツキの程度は同じだとみなせる。
この場合、2つのグループのデータを合体させて精度の高い分散(プールされた分散)を計算し、それを使って $t$ 検定 を行います。
このプロセスは、統計学において最も美しく、かつ実用的な結論を導く手法の一つです。
⑤ 正規分布に従う確率変数の標準偏差に関する信頼区間の推定において、両側信頼限界を求めるには、F分布の分位点が用いられる。
この選択肢は不適切です。
標準偏差は分散の平方根($\sqrt{\text{分散}}$)です。
したがって、標準偏差の推定は「分散の推定」と同じ分布を使います。
単一の母集団の分散を推定する際に使われるのは $\chi^2$ 分布 です。
$F$ 分布は「2つの分散を比べる」ためのもので、1つのグループの標準偏差(バラツキ)を評価するのには使われません。
追加解説:実務で役立つ「分布の選択フローチャート」
迷ったときは、心の中で次の質問を自分に投げかけてみてください。
- 「何を評価したい?」
- 平均 ⇒ $z$ か $t$。
- バラツキ(分散) ⇒ $\chi^2$ か $F$。
- 「相手は何人(何グループ)?」
- 平均を1つの基準や2グループで比較 ⇒ 次のステップ3へ。
- 分散を2グループで比較(比をとる) ⇒ $F$ 分布。
- 分散を1グループで評価 ⇒ $\chi^2$ 分布。
- 「神の視点(母分散)はある?」
- ある(既知) ⇒ 標準正規分布 ($z$)。
- ない(未知) ⇒ $t$ 分布。
まとめ
- 平均の比較で、真のバラツキが不明なら $t$ 分布 を使う(選択肢④の正解理由)。
- 2つのバラツキを比較して比をとるなら $F$ 分布。
- 1つのバラツキの大きさを測るなら $\chi^2$ 分布。
- 件数や回数(離散データ)を数えるなら 二項分布 や ポアソン分布。
感想
この種類の問題、どうやっても苦手ですねえ・・・・。

なので今回は自分用にいつもより厚めに解説書きました。
それでもまだわかった気がしていないという・・・・。
もう少し復習します・・・・。
あ、もちろん(?)不正解でした。